POKKA吉田&木曽崇のギャンブル放談<6>
日本版IRが少しずつ進み始めているのだが、それに伴って見込まれる外国人観光客についても注目が集まっている。いわゆるギャンブルツーリズムである。日本にはパチンコ・パチスロ、競馬、競輪、ボートレース、オートレースと他国にはないギャンブル文化がある。日本版IRにおいても花札や手本引、丁半など、和風ギャンブルを取り入れるのか?といった噂もネットでは流れている。今回はあまり語られることのない、ギャンブルツーリズムの今と未来、そして日本版IRの中身についてギャンブル界のご意見番、POKKA吉田氏と木曽崇氏に語ってもらった。
◆パチンコ、公営ギャンブルが外国人観光客を取り込む難しさ
──外国人観光客を取り込むための施策の一環として、日本でもカジノ関連施設を整備することになったわけですが、こうしたギャンブルツーリズムを、他の公営ギャンブルやパチンコでも取り込むことはできるんでしょうか。
木曽崇:パチンコ業界でも、3年ほど前から外国人観光客を取り込む施策を始めています。大手のホールが中心になって、訪日外国人向けのコンセプトをもった店舗開発をやっているんです。マルハン歌舞伎町店とか。しかし訪日外国人客だけであの歌舞伎町店はもたない。結果論として、訪日外国人だけで一店舗分をまかなえるほどの需要はないんですよ。やっぱり日本人でもってるなかで、プラスアルファで訪日外国人客が来てくれたらいいよね……ぐらいのものであって、今のところはまだ残念ながら大きな需要は出てないです。1億2千万人の人口が、365日この列島のなかで生活してるわけじゃないですか。どんなにいま訪日外国人が増えてるったって、せいぜい年間2700万人×数日間しか日本に滞在してないわけで、母数が違いすぎるんですよ。頭数で考えたら、どうしても日本人を中心に集客をせざるを得ない。
POKKA吉田:ギャンブルツーリズムが成立するからこそ、日本版IRが実現したわけだけど、その成立のしかたは、業種によって変わってくるって話だよね。
木曽崇:パチンコ遊技のギャンブルツーリズム化の難しさっていうのは、ベット金額に上限があるからなんですよ。パチンコの場合は、時間当たりの消費単価が法律上決まっているので、お客の頭数が少なければそのままダイレクトに売上も少なくなる。ところが我々カジノ業っていうのは、少人数のお客様でも、その人たちのひとりあたりの消費金額が大きければ、業としては成り立つんです。実際日本のカジノも、数の上では日本人の方が多いかもしれないけど、売上という面で見れば、外国人の方が多くなる可能性はあります。
POKKA吉田:たとえばアラブの石油王とかが、ものすごく心地よく1か月滞在できるIRがあれば、それでギャンブルツーリズムは成立するよね。
木曽崇:まぁ、イスラム教徒はギャンブルNGだけどね(笑)。
──日本の公営ギャンブルの問題として、ギャンブル禁止の国からやってきた外国人を勧誘する施策をおおっぴらに打つのは、まずいんですかね。
POKKA吉田:韓国は自国民にギャンブルを禁じてますね。あの国は、法律の運用の思想が違っていて、韓国でつくられた法律は韓国国内だけじゃなくて、広く世界中にいる韓国人にあまねく適用されるんです。これはね、先進国ではまずないです(笑)。
木曽崇:日本の刑法の賭博罪は属地主義なので、日本の領域のなかで効力を発揮する。日本国内で違法賭博をやったら外国人であっても裁かれるわけです。一方で、韓国の刑法賭博罪は属人主義で、韓国人をしばっています。なので彼らは、外国で常習賭博に相当するようなギャンブルの仕方をしてしまうと、国内法で裁かれてしまう可能性がある。そんなルールで、もうすでに芸能人が摘発受けたケースもあります。
POKKA吉田:オ・スンファンとかそうだもんね。
──日本に来る外国人の1位が中国人で、2位が韓国人ですよね。韓国を取れないっていうのは厳しいんじゃないでしょうか。
木曽崇:韓国のお客さんを取れないようだと厳しいけど、日本側のスタンスからすると、たとえ韓国人であっても海外での永住権を持ってる人たちは、韓国刑法の範疇から外れるらしいんですよ。
POKKA吉田:どうやら、昔はグレーゾーンだったらしいんですけどね。在日韓国人が韓国から見た外国人専用のパラダイスカジノあたりに行って、「なんで入れないんだ!」みたいなトラブルが多かったみたいですが、今はふつうに入れるんだって。日本に永住権を持ってるとか在外韓国人で韓国国内に住んでない証明ができるとか細かい要件はあるようだけど。
木曽崇:そうすると、パスポートを見ただけでは、この人が韓国刑法に基づいてNGのお客さんなのかそうじゃないのか判別のしようがないんです。わからない以上、我々は、いわゆる「善良なる第三者」という立場で彼等をおもてなしをするしかないわけですよ。日本のみならず世界中のカジノが、そういうスタンスで韓国のお客さんを受け入れています。
◆花札、丁半など和式ギャンブルは日本版IRに導入されるのか?
──世界中のカジノがお客さんの取り合いをしている中で、日本のカジノはどう差別化を図るんでしょうか。例えば花札や丁半博打といった日本独自のゲームは、外国人にとって魅力的に映るように思いますが。
木曽崇:リアルの花札を使ったゲームや、お姉さんがサラシを巻いてツボを振るようなサイコロ賭博は、すくなくとも当面はできないです。新しいゲームを導入するには、そのゲームでは不正がどういうふうに起こりうるのか、それをどうやって防ぐのかのノウハウ・知識が不可欠です。これから新しくカジノを合法化する日本で、新しい日本独自のゲームを入れて、不正を防ぐためのルールをつくるところまでには行き着かないと思います。やるんだったら、もうちょっと落ち着いてからです。
POKKA吉田:花札やサイコロのノウハウを持ってんのは、ヤクザもんばっかりやん(笑)。まさか政府がヤクザもんからノウハウを聞き出すなんてあり得ないしねぇ。
木曽崇:先のIR整備法の国会審議の中でも、日本のカジノはグローバルスタンダードに則るんだという主張がありました。海外のカジノで採用されているゲームが、日本では採用されていないような事態はまずいから、基本は国際水準に合わせたい、ということですね。その一方で、日本の独自ゲームに関しては、これまでほとんど議論されていません。そういう状況ですので、日本版IRは、ごく一般的なカジノとして始まります。もちろん、カジノがスタートして一定程度落ち着いた段階になれば、じゃあ日本のカジノとはなんぞやという部分を再整理するべきだと思うし、僕も積極的に言っていくつもりです。
POKKA吉田:そもそも、将棋、囲碁、麻雀、ツボ振り、手本引き、賽本引き、その他なんでもいいけど、そういう日本だからこそできるゲームを外国のお客さんに提供しようと言っているのは、日本人ばかりですよね。当の外国人は、そんなこと求めてないよ。
木曽崇:日本側の人の多くがそうなんですが、「日本独自の」って言いたがりなんですよ。そういう人は、特に丁半と花札を挙げて「国際観光客にアピールだ!」って言うんですけど、でも丁半も花札も国際的にはスタンダードなゲームじゃないでしょう。誰もゲームのルールを知らないんだから、そんなもの「もの珍しさ」以上のなにものにもなりませんよ。
POKKA吉田:規制が関わってくるゲーム内容で日本を強調するのでなく、まずはディーラーのお姉ちゃんに着物を着せたり、VIPテーブルを和室にしたりすればいい。日本好きな外国人だったらそれだけで「アアーッ! 畳の部屋やー! ファンタスティック! アメイジング!」って叫びますよ。
木曽崇:「日本独自の」と言っている人と僕は基本スタンスが違います。日本の伝統芸能では、「守破離」という考え方があるじゃないですか。まずは先人の残した型を守りながら修行を積んでいき、力がついたところで初めて既存の型を破って自分なりの新しい型を確立するというね。それを思うと、ちゃんと確立したものがまだなにもない日本のカジノ産業が、いきなり「日本独自の」なんていうのはありえないですよ。そもそも日本人ってもともと独自性を訴えるような民族じゃないでしょ? 我々は真似をして改良を加えながら、発展してきた民族じゃないすか。なのに急に「アメリカでやってないことをやりましょう!」なんて、おこがましいです(笑)。これから初めて新しい産業をやるんですから、まずは海外の模倣からですよ。すでに実績あげてるところをトレースするのが基本でしょうね。
──海外のカジノで、地域性を出しているところはあるんですか?
木曽崇:アメリカにはアメリカ独自のゲームがあるし、マカオにはマカオ独自のゲームがあります。とくにダイス(サイコロ)ゲームに関しては、けっこう現地色があるんですよ。アメリカのクラップスや、マカオの大小などは、日本でいう丁半博打に近いですね。ただそういう独自性の高いゲームは、カジノ運営の長い歴史があるからこそできることなんです。
POKKA吉田:俺の場合は、日本でバカラができれば、それでええもん。バカラは絶対できるじゃん。
木曽崇:まずはそこですよ。グローバルスタンダードで、日本に来るようなアジア圏のお客様が好んでやるゲームを、まずは優先しなくてはいけない。誰も知らない、日本人しか知らないようなゲームをやって、「これが国際的にアピールするんだ、独自なんだ」みたいな態度は、お客様の視点に立っていない、ただの押し売りですよ。
日本版IR……その独自色はどのように出していくのだろうか。今後の流れには注目したいところである。
【POKKA吉田氏】
ぱちんこジャーナリスト。パチンコ業界紙『シークエンス』の発行人・編集長。近著に『パチンコが本当になくなる日』などがある。メーカーが主催するセミナーで講師も務めている。 Twitter:@POKKAYOSHIDA
【木曽崇】
国際カジノ研究所所長。日本では数少ないカジノ産業の専門研究者。近著は『「夜遊び」の経済学 世界が注目する「ナイトタイムエコノミー」』(’17年、光文社新書) Twitter:@takashikiso
構成/野中ツトム、松嶋千春(清談社)
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