J・エドガーとは、初代FBI長官フーバーのことである。任期期間は1924年から72年までだから、ほぼ半世紀。その間に大統領が8人も代わったが、彼はずーっとアメリカ国家の黒幕として権力の中枢に携わってきた。つまり米政府の超偉いさんなのだが、そのグレーゾーンなイメージから、やたらヒール扱いされることの多い人物である。
【関連写真】イーストウッド監督が「J・エドガー」ゲイの脚本家に唯一聞かなかった質問
最近の日本でいうと、小沢一郎みたいなキャラだと考えてもらえればわかりやすいだろう。この映画、I・オザワ……ではなく「J・エドガー」は、そんな“微妙な巨人”の知られざる素顔に迫るもの。クリント・イーストウッド監督の新作なので、映画としての風格はたっぷりだが、その中身は、芸能レポーターやスポーツ新聞ばりのえげつない私生活への踏み込みに満ちた、ほとんどブラックコメディと言えるオモシロ映画である。
いや、非常にシリアスで重厚な“米国年代記”ではあるのだが、その斬りこみ方が斜めすぎて、筆者は上映中、何度も爆笑・苦笑・失笑を繰り返した。例えば、生涯独身だったフーバーが老いた母親と繰り広げる、「ママの言うことをきかないとメッ! よ」的なシーン。副長官クライド・トルソンとの秘められた、時に激しすぎるボーイズラブ。ケネディ大統領暗殺の報が秘書から入った時には、「エロ動画見ている時にドアを開けられた中学生」のような反応を見せる。 政治や歴史などを取っ払って映画を見ると、「マザコン」と「BL」の二大柱に、女装癖や見栄っ張り、差別主義などが加わった怪人の物語なのである。そんなフーバーを、特殊メイクを上手に駆使したレオナルド・ディカプリオの演技は圧倒的だ。
イーストウッド監督作の中では、ネルソン・マンデラ大統領を描いた「インビクタス/負けざる者たち」と対になるものだと、とりあえず位置付けることができよう。行政のアプローチも対照的で、ニコニコ笑顔を絶やさないマンデラは「太陽」、強行手段に打って出るフーバーは「北風」タイプと言える。
しかし、筆者がもっと端的に連想したのは、オリヴァー・ストーン監督の映画だ。主演者のなりきり演技も含めて、“好かれない権力者”を描く「ニクソン」や「ブッシュ」の構造にとても似ている。まあ、ストーンの作品がトリッキーで、勢いやノリ重視なのに対し、イーストウッドはナチュラルで、美術も音楽もじっくり熟成されているという、根本的な作風の違いはもちろんあるのだが。
ここで注目したいのが、脚本家だ。ゲイの政治家、ハーヴェイ・ミルクの半生を描いた「ミルク」のダスティン・ランス・ブラックが担当している。この「ミルク」は、結局、ガス・ヴァン・サントが監督して高い評価を得たが、元々はオリヴァー・ストーンが持っていた企画であった。このつながりを考えると、「J・エドガー」にストーンの影がちらつくのも別に不思議ではないのかもしれない。(文:森直人)
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いや、非常にシリアスで重厚な“米国年代記”ではあるのだが、その斬りこみ方が斜めすぎて、筆者は上映中、何度も爆笑・苦笑・失笑を繰り返した。例えば、生涯独身だったフーバーが老いた母親と繰り広げる、「ママの言うことをきかないとメッ! よ」的なシーン。副長官クライド・トルソンとの秘められた、時に激しすぎるボーイズラブ。ケネディ大統領暗殺の報が秘書から入った時には、「エロ動画見ている時にドアを開けられた中学生」のような反応を見せる。 政治や歴史などを取っ払って映画を見ると、「マザコン」と「BL」の二大柱に、女装癖や見栄っ張り、差別主義などが加わった怪人の物語なのである。そんなフーバーを、特殊メイクを上手に駆使したレオナルド・ディカプリオの演技は圧倒的だ。
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