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ゲハブログ最大手「はちま寄稿」が謝罪文を掲載、管理人交代へ

 2ちゃんねるの「ニュース速報(嫌儲)」板、および「ゲーム業界、ハードウェア」板(通称ゲハ板)を中心に、現在ある「祭り」が起きている。ゲームブログ最大手「はちま寄稿」が炎上し、管理人の個人情報特定、さらには広告代理店との背後関係が暴露される事態に発展した。元旦からネットを騒がせた「ステマ騒動」の余波が、意外な形で飛び火し「炎上」につながった格好だ。

【「ゲハ板」を発火点とする「もうひとつのステマ騒動」とは?】

 炎上後も「はちま寄稿」は一切コメントせず平常通り更新を続けていたが、1月16日夜、急遽「今回の騒動について」というエントリを掲載し、「俺のせいで迷惑をかけた人には本当に申し訳なく思っています」と謝罪した。また今後「はちま寄稿」のサイト運営については知人に譲渡し、自身は管理・更新から手を引くという。サイト自体はその「知人」が引き続き更新することで存続させるのだろうし、本当に今までの管理人が「利益を得」ないのかは確かめようがないが、一応の区切りはついたと言える(ちなみに謝罪文掲載からきっかり1時間後、はちま寄稿ではすでに新しいエントリを掲載している)。

 そもそも今回の騒動はなぜ起こったのだろうか。発端の1つは、2ちゃんねるの「ニュース速報(ニュー速)」板で起こった「ステマ騒動」だ。こちらもまだ完全に終息したとは言えないものの、今のところ「ニュー速」ユーザーの大半が、転載禁止をローカルルールとする「ニュース速報(嫌儲)」板へ移住するという形で一定の決着を見ている。このあたりの経緯については、ITmediaニュースの解説が詳しいのでそちらを参照(http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1201/13/news070.html)してほしい。

 しかし、ニュー速民が「ニュース速報(嫌儲)」板へと移住している裏側で、ゲームユーザーに関係の深い「ゲハ板」でも、ほぼ同時進行で「ステマ騒動」は起こっていた。むしろ、くすぶり続けていたステマへの疑念や不満については、ゲハの方がニュー速よりもはるかに根深かった言っていいだろう。今回の祭りは、そうした「ゲハ板」ユーザーの鬱憤が引き起こしたものでもあり、同時に「ニュース速報(嫌儲)」へ移住したニュー速民による、ステマ騒動の第2ラウンドでもある。

 著書に「ゲームになった映画たち シネマゲーム完全読本」などを持ち、以前は広告業界に身を置いていたことから、こうした業界の事情に詳しいゲーム・映画ライターの吉田味庵(ジャンクハンター吉田)さんは、今回の騒動についてこう分析する。

「『食べログ』の件も含め、ちょうど『ステルス』な手法が問題として取り沙汰されたタイミングでもあったことが、インターネット住人たちのエンジンをフルスロットルにさせてしまったのだと思います」(吉田さん)

●ゲハと「ステマ」の長い戦い

 そもそも「ゲハ板」においては、2005年ごろにはすでに「ステマ(ステルスマーケティング)」という言葉が頻繁に使われていた。ステマとは、大ざっぱに言えば「広告であることを隠した企業の広告活動」のことを指すが、「ゲハ板」ではどちらかと言えば、「特定の企業が、掲示板やブログなどを利用して、密かに競合他社の誹謗中傷を行ったり、自社製品のPRを行ったりすること」の意味で使われていた。ソニーの社内LANを経由して、他社製品への中傷書き込みを行っていた「ゲートキーパー問題」がおそらく直接の発端ではないかとされている(もっとも、本当にステマが行われていたかについて証明するのは難しく、「陰謀論にすぎない」「見えない何かと戦っている」といった声はゲハ内でも多くあった)。

 また「祭り」に至ったもうひとつの背景として、ゲハの書き込みを無断で転載し、引き換えにアフィリエイトや広告で収入を得ていた「はちま寄稿」のようなゲームブログ、通称「ゲハブログ」への潜在的嫌悪感もあった。「まとめブログ自体、言ってみれば他人のテストの答案用紙を書き写して提出するようなもの。オリジナル記事の作成者からすると、ネタを勝手に二次利用され、アクセスアップへの加担からビジネスチャンスを生ませていることが許せないのでしょう」(吉田さん)

 そうした「嫌儲(けんもう、けんちょなどと読む)」感情を抜きにしても、ゲハブログの「余罪」は多い(そもそも書き込みの無断転載も著作権法違反だが)。商用画像の無断掲載、恣意的なレスの抽出による偏向報道。もっと言えば、扇情的な見出しでユーザー同士の対立を煽り、世論を特定の方向へと誘導することで「ステマ」に荷担しているのではないか――。ゲハでもっとも盛況な「速報スレ」では、いつしか新スレッドを立てる際のテンプレートに、それら大手ゲハブログへの転載を禁じる文言が組み込まれるようになった(とは言え拘束力はないため、今でもレスの無断転載は続いている)。

「業界やそれに付随するユーザーの、彼らに対する嫌悪感は凄まじいものがあり、いつかボロを出すだろうと常時ロックオンしている人が大勢潜んでいます。以前別の大手ゲハブログの管理人が『顔バレ』してしまい大炎上が発生しましたが、これもゲハブログを敵視し、いつか陥れてつぶしたいという敵対心の表れでしょう」(吉田さん)

●ゲハでは失敗に終わった「移住運動」

 こうした現状を受け、実は昨年末、ゲハで1つの運動が起こっていた。ゲハブログの無断転載に対抗するため、「速報スレ」をゲハから「ニュース速報(嫌儲)」へ移転させよう、というものだ。「ニュース速報(嫌儲)」は転載を嫌うニュー速民のために作られた板で、ローカルルールで外部サイトへの転載を禁じているのが特徴。ニュー速民が大移動をするその少し前に、ゲハでも同じような動きは起こりつつあったというわけだ。

 しかしこの案は結局、実現には至らなかった。一時的に「ニュース速報(嫌儲)」に速報スレが立てられたこともあったが、結局そちらへ移った人はわずかで、大多数は今までどおりゲハに残ることを選択した。ゲハ自体を「ニュース速報(嫌儲)」と同じように転載禁止にしてもらおうという動きもあったが、これも運営側により「これは板利用者で決められるルールではなく、2ch全体の方向性に関わるルールになりますので、代理人の裁定が無い限りは入れることは出来ません」と却下されている。どこが明暗を分けたのかは不明だが、結果的にニュー速では移住に成功し、ゲハでは移住に失敗したということになる。

●事態は急転、再び「祭り」へ

 こうしていったんは収まったかに見えたゲハの移住騒動だが、年が明けてから意外な形で再燃することになる。上述した「ニュー速民の大量移住騒動」を「はちま寄稿」が「2ちゃんねるで一揆発生! ニュース速報板住民の不信不満が爆発……大量移住へ」というエントリで取り上げた際、抽出したレスがあまりにも偏向的だったために(「ちょっと何言ってるかわかんない」「移住しても誰も困らない」といった、移住者を煽るようなレスばかりを抽出した)、移住した嫌儲民たちがこれに猛反発したためだ(おそらくその中には、以前からゲハにいた「反はちま勢」も少なからず加わっていただろう)。嫌儲板には一時、はちま寄稿のアンチスレが乱立し、ついには管理人の名前や住所を突き止める者まで現れた。個人情報を特定し、晒すのはTwitterやmixiなどの「炎上」でもよく見られる攻撃方法だが、今回はゲハブログへの積年の鬱憤もあって、たちまち「祭り」へと発展した。「いつか陥れてつぶしたいと常時ロックオンしていた人たち」の敵対心が、ここぞとばかりに爆発したわけだ。

 個人情報に関わる部分については非常にデリケートな問題なので、ここで詳しく触れることは避けたい。しかし個人情報が特定されたことで、同時にこれまでは公にされていなかった「広告代理店とのつながり」が露わになり、そのことがさらなる燃料を投下した形となった。「広告代理店からお金をもらってゲームの宣伝記事を書いていたのではないか」という疑いがますます濃厚になったわけだ。これまでステマについてはその性質上、存在の立証が難しかったが(だからこそステルスなのだが)、「これこそステマの証明だ」と騒ぐ者も現れた。

 これがステマにあたるのかどうかはさておき、広告代理店とのつながりが浮かび上がったというのは少なからず衝撃を与えた。「同ブログが『個人運営』ではなかったという点が、今回の炎上の1つのポイントになっています。個人ではなく企業ぐるみだったという部分がキャッチアップされ、アンチまとめブログ派の怒りにますます油を注いだ形になった」(吉田さん)

●ブロガーと広告代理店

 また、具体的に支払われる金額について、別の大手ゲハブログ管理人がTwitterでこんなこともつぶやいている。

「(略)ゲームのブロガー体験会イベントはゲーム会社が代行会社に多大な報酬を払ってブロガーを集めてます(いわゆるステマ)。相場は1つのブログによって30〜100万円ぐらい。それ聞いてアホくさくなったので体験会にいくのは辞めました」(大手ゲハブログ管理人)

 ここで言う「30〜100万円ぐらい」というのは、メーカーから広告代理店に支払われる金額であって、必ずしも全額がブロガーに行くわけではないだろう。とは言えこうした「ブロガーと組んだプロモーション」は以前から行われていたという。

「いくつかの広告代理店が、クライアント(ゲームメーカー)へ営業を仕掛ける際のカードとして、個人ブログを飼い慣らしているのは事実です。例えは悪いですが鵜飼いのようなものだと思ってください。代理店は個人ブロガーを集めて、新作ゲームの体験会をやらないかとメーカーに提案する。その際、代理店からブロガーに一定の『協力費』が支払われることもあれば、単に『体験会取材』という形で何も支払われないこともあります。大手ブロガーともなれば別ですが、中小クラスの個人ブロガーであれば、人よりも先にゲームを体験できる、ゲームメーカーを直接訪問できる、お小遣い又はギャラが発生することもある――といったアドバンテージだけでも喜んで参加してくれるでしょう。代理店としては少ない予算で効果をあげることができるため、ブロガーと組んだプロモーションは効率が良かったわけです」(吉田さん)

 「はちま寄稿」の場合、1日あたりのアクセス数は「200万アクセスを誇る」(吉田さん)と言われる。月間なら約6000万アクセス。これはもはや商業ゲームサイトをも上回る規模であり、そこで商品が紹介されれば確かに認知度アップは見込めるだろう。しかし前述のとおり、ゲハブログ自体が非常にグレーな存在であり、これまではメーカーが堂々と彼らにコンタクトを取るのはタブー視されてきた。そこへ「広告代理店というフィルターが間に入ったことで、メーカーもゲハブログを使ったマーケティングを展開しやすくなった」(吉田さん)という背景事情もあるという。

 こうした「一般消費者の口コミを狙ったプロモーション」は、一般に「バイラルマーケティング」と呼ばれ、広告業界では以前から普通に行われてきたことでもある。先ほど「ステマにあたるのかどうかはさておき」と書いたのはそのためで、今回の例も厳密に言えばステルスマーケティングというよりは一種のバイラルマーケティング、もしくはタイアップマーケティングの一種と呼ぶべきかもしれない。しかし、高まりに高まった「はちま憎し」の流れはもはや止まることはなく、「ニュース速報(嫌儲)」に立てられたアンチスレは現時点で80スレ目に突入。はちま寄稿のコメント欄にも、管理人を糾弾するコメントがいまだ多く寄せられており、ついには「謝罪文掲載、管理人交代」という事態を引き起こすに至ったわけだ。

●一人歩きをはじめた「ステマ」

 以上が「現在まで」に起こったことの大まかなまとめとなる。ここからは「現状」と「これから」について考えてみよう。

 1つ注意しなければならないのは、現状、「ステマ」という言葉が本来の意味を失い、一人歩きしてしまっている点だ。これは「コンテンツビジネスの根幹を脅かしかねない危険な状態」だと吉田さん。「すでに冷やかし目的の言葉遊びになっている感もありますが、企業側としては宣伝もPRも広告出稿もタイアップすらも、とにかく何から何まで『ステマ判定』されてしまっては一切の宣伝・広報活動ができなくなってしまう」と警鐘を鳴らす。

 実は筆者も昨年末、あるゲームのレビューを書いたところ、たちまち「ステマ乙」「なんというステマ臭」などとコメントされてゲンナリしたことがある。何がステマなのか、ステマの何が問題なのかを理解せず、単に祭りに乗じて騒ぎたいだけの人も多いのは事実だろう。「ステマというキーワードに対する語感の良さが、彼らの集団心理を一体化させたんだと思います。理解せずにステマを連呼し、同意を求めることで一体感を得ようとする。相手をすればするほど彼らの蟻地獄にハマりに行ってしまうことになる」(吉田さん)

 とは言え、ユーザーが疑心暗鬼に陥ってしまっている現状では、今までのような「ブロガーを使った紛らわしいバイラルマーケティング」については考え直す必要もありそうだ。

 注意したいのは、メーカーはあくまで「バイラルマーケティング」として代理店にオファーしているのであって、決して積極的にステマを行っていたわけではないという点だ。「私が知るかぎり、ゲームメーカーが個人ブロガーにステマを促したり、強要したりしたという例はありません」(吉田さん)。しかし、ブロガーとの間に広告代理店が入り、出稿関係や報酬のやりとりが不明瞭になったことで、結果としてユーザーからは「ステマではないか」と疑いの目で見られるようになってしまった。今後はこうした部分をよりハッキリさせることで、まずはユーザーの信頼回復に務めるのが第一だろう。もはや問題は「ステマかどうか」よりも、「ステマだと思われてしまうかどうか」に発展しつつある。

 同時に、記事を読む側が情報をきちんと選別し、捏造や煽動(せんどう)に踊らされないリテラシーを身に付けることも大切だ。ネット上においては、ソースを疑ってみるのは重要なことだが、何でもかんでも「ステマ乙」と決めつけてしまっては単なる思考停止と何ら変わらない。結果、メディアやメーカーが必要以上に萎縮してしまえば、その不利益は巡り巡って読み手やゲームユーザーにも返ってくる。

●今度はどうすべきか

 今回の「はちま寄稿」の炎上は、謝罪文掲載と管理人交代という形で、ひとつの決着を迎えた形となった。しかしここまでの流れを読めば分かるように、ゲハブログをめぐる問題は、単に謝罪すればいい、管理人が変わればいいといった簡単なものではない。エントリを見る限り、「はちま寄稿」は今後も更新を続けるようだが、根本的な問題を理解し、それまで問題視されていた体質が改善されなければ何の意味もないということになる。今後同ブログがどう変わっていくのか、併せてブロガーを使ったプロモーションの是非などについても、注意して見ていく必要はあるだろう。

 最後に、今後業界はどのように対応していくべきかを聞いた。

「まずは消費者庁がしっかり動いて、何がステマで何がそうでないかの基準をはっきりさせるべきでしょう。一般媒体ではタイアップ記事には『PR』と表記されるのが通例ですし、このままではゲーム業界自体がコンテンツ・ビジネスの世界でも底辺扱いのまま這い上がれなくなってしまう。マーケティングにおけるレギュレーションを、広告業界含めて一度ディベートすることも必要ではないでしょうか」(吉田さん)


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