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アジアの稲作地帯、気候変動で危機に

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 気候変動が進行すると、東南アジアでは洪水や干ばつの強度と頻度が増すと予測されている。「すぐに手を打たなければ、世界の稲作地帯と膨大な数の住民が危険にさらされる」と専門家たちは警告する。

 4月、タイのバンコクで、「アジアにおける気候変動対応型農業(Climate-Smart Agriculture in Asia)」と題する国際的な専門家会合が開かれた。国際農業研究協議グループ(CGIAR)と世界気象機関(WMO)が主催し、世界中から気候学者や農業学者が参加。気温の上昇、塩害、集中豪雨など、地球温暖化の影響に対処するために、アジア地域で採用可能な新しい農業の方式や技術について話し合った。

◆稲作の危機

 南アジアや東南アジアの国々には、世界人口の30%以上が暮らす。そのおよそ半分が、農業、主に稲作に依存して生計を立てている。ところが世界銀行の予測によると、今後30年間で同地域の農業生産性は10~50%も減少する。主な原因は地球温暖化だ。

 その変化は一部では既に現実となっている。例えば、メコン川が南シナ海に流れ込むベトナムのメコン・デルタでは、海面上昇で水中の塩分濃度が上昇。稲作を捨て、エビ養殖に鞍替えを強いられる人が出始めている。

◆地下水の再補充

 地球温暖化の影響に適応して農業を続けるためには、方式の転換が必要となる。バンコクの会合で注目されたのは、管理型地下水人工涵養(かんよう)(MAR: Managed Aquifer Recharge)技術のアジア地域への導入である。

 CGIARの水文学者マシュー・マッカートニー(Matthew McCartney)氏は、「浸透しやすい土壌の地下に洪水の水をたくわえて、後に灌漑に利用する技術だ」と説明する。

 MARはオーストラリアや南ヨーロッパなどの乾燥地帯の貯水システムとして利用されてきたが、東南アジアのように定期的に雨の降る湿潤地帯で導入された事例はないという。

 しかし、東南アジアでMARを利用すれば、将来この地に影響を及ぼすとみられる2つの大きな問題を同時に解決できるだろう。増水した川から水をそらせば洪水被害が緩和し、干ばつ期用の予備水源も確保が可能になる。

 会合で発表された試算によると、小さな涵養池でも、合わせて100平方キロまで造成すれば、2000平方キロの農地を灌漑できるという。

「土地を涵養池に変えると生産量は減るが、全体的な生産性が向上するので簡単に埋め合わせることができる」とマッカートニー氏は話す。

 水資源問題を専門とする非営利団体「パシフィック研究所」のジュリエット・クリスチャン・スミス(Juliet Christian-Smith)氏は、「水源を確保する場合、川や雪解け水など、地表の水系ばかりを想定しがちだ。しかし実際には、灌漑システムを機能させ、世界の食料供給を支えている水の大半は地下を流れている。地下には水をたくわえるスペースが豊富にある」と述べる。

「地表のダムは、気温上昇に伴う蒸発量の増加や沈殿物の堆積で貯水量が減少する。MARならこのような問題に悩むことはない」。

 マッカートニー氏は、「東南アジアでのMAR利用はまだアイデアの段階にすぎず、実施までにはさまざまな調査を行っていく必要がある」と指摘する。

 現段階でも、人工涵養が水質に及ぼす影響について問題視されている。例えば、バングラデシュで実施された研究によると、地下水の人工涵養を繰り返した場合、ヒ素など地表の有毒物質が地下に浸透し、濃縮される現象が確認されているという。

◆水田の乾燥化

 バンコクの会合では、MARのような適応案だけでなく、温室効果ガス排出の削減案も提示されている。例えば、水田の水張りと水抜きを定期的に繰り返す新しい農業方式が提案された。水田に水を張り続けていると、強力な温室効果を持つメタンガスが発生する。国際稲研究所(IRRI)の報告では、定期的に水田を乾かせば、生産量を維持したまま水の消費量を30%削減し、温室効果ガスの排出も25~50%削減できるという。

 ただし、この方式にも問題はある。農家の負担が大幅に増大する点だ。非常に煩雑な水管理が必要となるが、実行するだけのインセンティブは存在していない。

◆長期的な取り組み

 MARも水田乾燥化も有望な技術ではあるが、地球温暖化に伴う農業問題をすべて解決するには不十分だ。

 CGIARの研究プログラム「気候変動、農業と食料安全保障」(CCAFS)のプログラムディレクターを務めるブルース・キャンベル氏は次のように話している。「特効薬は存在しない。地球温暖化の影響に対処するには、さまざまな方法を組み合わせていく必要がある」。

Ker Than for National Geographic News

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