タイタニック号沈没100周年を数週間後に控え、近代史上最も著名な海難事故の原因解明に一石を投じる新しい理論が発表された。
研究論文によれば、1912年の4月14日の悲劇は、太陽と満月と地球のめったにない並びによってもたらされた可能性がある。
タイタニック号が沈没したのは月のない夜だったが、タイタニックを沈めた氷山が漂流し始めたのは、事故から3か月半前の満月に一因があるという。
論文の著者でテキサス大学の天文学者ドナルド・オルソン氏によれば、満月を迎えた1912年1月4日は潮の満ち引きの差がことのほか大きく、いくつもの氷山が南へ流出して不幸にもタイタニックの処女航海に出くわしたという。
◆原因は月にある?
1912年春に例年より氷山が多かったことは、当時すでにわかっていた。しかしなぜそうなったのかは謎だった。
オルソン氏は氷山の大量発生について、「スーパームーン」を含む天文現象のめったにない組み合わせの結果だったと考えている。スーパームーンは、毎月発生する月の近地点通過と満月が重なることを言う。
満月および新月のとき、太陽と地球と月は一直線に並び、地球に加わる太陽と月の重力の影響(潮汐力)が強まる。その結果、潮位の変化が普段より大きくなり、大潮と呼ばれる現象が起きる。
そして1912年1月4日の満月、すなわち大潮が起きる位置関係は、月がいつもより地球に近づくわずか6分前まで続いた。
当日は実に西暦796年以来、最も月が地球に近づいた日だった。これほどの大接近は2257年まで発生しない。月の大接近と天体配列の関係で、地球にもたらされた潮汐力はとても強くなり、潮位の変化も非常に大きくなった。
◆潮汐とタイタニック
では、どのようにして大潮がタイタニックの事故に繋がったのか。
まず、グリーンランドのフィヨルドに張り出した氷河の先端が大潮に揺られて砕け、大量の氷山が南に向かって流れ出すことがある。
ただし氷山の速度は遅いため、1月4日の大潮で生じた氷山が4月14日までにタイタニックの前へ到達することはなかっただろうと、オルソン氏らの研究チームは結論づけた。
同氏によれば、1月4日に起きた大潮は、さらに前に海へ流れ出し、カナダのラブラドール半島からニューファンドランド島沖の浅瀬に着底していた氷山に影響した可能性があるという。
この地にたどり着いた氷山は、通常ならある程度以上溶けるまで再び浮き上がって動き出すことはない。しかし高潮が発生すれば話は別だとオルソン氏は話す。
1月4日に発生した異常に大きな潮位の変化によって、着底していた氷山の大半が一度に浮かび上がり、大量の氷山がタイタニックの航路に向けて南進したという。
◆果たして潮汐の問題か?
オルソン氏の理論は興味深いが、誰もが納得しているわけではない。
たとえば、シカゴにあるアドラープラネタリウムの天文学者ゲザ・ギュク氏は、1912年1月4日の大潮が非常に大きかったという点に異論を唱えている。ギュク氏によれば、月の近地点通過と満月または新月が重なるのは数年おきに起きており、氷山の発生にはあまり影響しないという。
さらに潮汐力の増大についても、満月および新月になる天体配置と月の近地点通過の時間差は、6分以内でも数日内でも大差ないとギュク氏は言う。「月の近地点通過の前後1日程度の範囲なら、満月がいつになっても潮汐力にはほとんど差がない」。
さらに、1912年1月4日の月と地球の距離は、平均よりもわずか6200キロほど近かったに過ぎないという。「その日の近地点通過時と、平均的な近地点通過時の潮汐力の違いはたった5%程度だ」。
今回の研究の共著者オルソン氏は、ギュク氏の指摘に異議は唱えなかったが、着底した氷山が再び動き出すのに、とてつもなく大きな潮汐力が必要なわけではないと述べた。「満潮時に浜へ手こぎボートを引き上げ、そのまま放置したと考えてみて欲しい。 極端に高くない潮位でも、ボートが流れ出すには十分だ」。
さらにオルソン氏は、「1912年1月の記録的な潮位について、世界中にいくつもの話が残っている」と付け加えた。
タイタニックと月の関係に関する論文は、「Sky & Telescope」誌の4月号に掲載されている。
Richard A. Lovett for National Geographic News
【関連記事】
・タイタニック再調査:発見から25年
・救命ボート、客船事故の教訓
・船腹にあいた穴 (写真集:タイタニック号発見 9枚目)
・最接近の満月、“スーパームーン”
・グリーンランドのフィヨルド
研究論文によれば、1912年の4月14日の悲劇は、太陽と満月と地球のめったにない並びによってもたらされた可能性がある。
タイタニック号が沈没したのは月のない夜だったが、タイタニックを沈めた氷山が漂流し始めたのは、事故から3か月半前の満月に一因があるという。
論文の著者でテキサス大学の天文学者ドナルド・オルソン氏によれば、満月を迎えた1912年1月4日は潮の満ち引きの差がことのほか大きく、いくつもの氷山が南へ流出して不幸にもタイタニックの処女航海に出くわしたという。
◆原因は月にある?
1912年春に例年より氷山が多かったことは、当時すでにわかっていた。しかしなぜそうなったのかは謎だった。
オルソン氏は氷山の大量発生について、「スーパームーン」を含む天文現象のめったにない組み合わせの結果だったと考えている。スーパームーンは、毎月発生する月の近地点通過と満月が重なることを言う。
満月および新月のとき、太陽と地球と月は一直線に並び、地球に加わる太陽と月の重力の影響(潮汐力)が強まる。その結果、潮位の変化が普段より大きくなり、大潮と呼ばれる現象が起きる。
そして1912年1月4日の満月、すなわち大潮が起きる位置関係は、月がいつもより地球に近づくわずか6分前まで続いた。
当日は実に西暦796年以来、最も月が地球に近づいた日だった。これほどの大接近は2257年まで発生しない。月の大接近と天体配列の関係で、地球にもたらされた潮汐力はとても強くなり、潮位の変化も非常に大きくなった。
◆潮汐とタイタニック
では、どのようにして大潮がタイタニックの事故に繋がったのか。
まず、グリーンランドのフィヨルドに張り出した氷河の先端が大潮に揺られて砕け、大量の氷山が南に向かって流れ出すことがある。
ただし氷山の速度は遅いため、1月4日の大潮で生じた氷山が4月14日までにタイタニックの前へ到達することはなかっただろうと、オルソン氏らの研究チームは結論づけた。
同氏によれば、1月4日に起きた大潮は、さらに前に海へ流れ出し、カナダのラブラドール半島からニューファンドランド島沖の浅瀬に着底していた氷山に影響した可能性があるという。
この地にたどり着いた氷山は、通常ならある程度以上溶けるまで再び浮き上がって動き出すことはない。しかし高潮が発生すれば話は別だとオルソン氏は話す。
1月4日に発生した異常に大きな潮位の変化によって、着底していた氷山の大半が一度に浮かび上がり、大量の氷山がタイタニックの航路に向けて南進したという。
◆果たして潮汐の問題か?
オルソン氏の理論は興味深いが、誰もが納得しているわけではない。
たとえば、シカゴにあるアドラープラネタリウムの天文学者ゲザ・ギュク氏は、1912年1月4日の大潮が非常に大きかったという点に異論を唱えている。ギュク氏によれば、月の近地点通過と満月または新月が重なるのは数年おきに起きており、氷山の発生にはあまり影響しないという。
さらに潮汐力の増大についても、満月および新月になる天体配置と月の近地点通過の時間差は、6分以内でも数日内でも大差ないとギュク氏は言う。「月の近地点通過の前後1日程度の範囲なら、満月がいつになっても潮汐力にはほとんど差がない」。
さらに、1912年1月4日の月と地球の距離は、平均よりもわずか6200キロほど近かったに過ぎないという。「その日の近地点通過時と、平均的な近地点通過時の潮汐力の違いはたった5%程度だ」。
今回の研究の共著者オルソン氏は、ギュク氏の指摘に異議は唱えなかったが、着底した氷山が再び動き出すのに、とてつもなく大きな潮汐力が必要なわけではないと述べた。「満潮時に浜へ手こぎボートを引き上げ、そのまま放置したと考えてみて欲しい。 極端に高くない潮位でも、ボートが流れ出すには十分だ」。
さらにオルソン氏は、「1912年1月の記録的な潮位について、世界中にいくつもの話が残っている」と付け加えた。
タイタニックと月の関係に関する論文は、「Sky & Telescope」誌の4月号に掲載されている。
Richard A. Lovett for National Geographic News
【関連記事】
・タイタニック再調査:発見から25年
・救命ボート、客船事故の教訓
・船腹にあいた穴 (写真集:タイタニック号発見 9枚目)
・最接近の満月、“スーパームーン”
・グリーンランドのフィヨルド