
■1000兆円の借金は返済可能か?
日本の借金は2011年末「1000兆円を突破した」と発表されました。日本の1年間の予算額は90兆円程度、GDPは500兆円程度。こんな、膨大な額は返済可能でしょうか?
実際税収が45兆円程度しかないので、まともに赤字を出さないような予算を組むとしたら、バッサリと歳出をカットするしかありません。つまり、社会保障費をカットする(病気になっても3割負担ではなく、7割や全額負担になる)、地方交付金をカットする(地方に行くお金がなくなり、地方は衰退する)、公務員給与を50%カットするような方法です。しかし、これらは国民がまず了承しない(実際に多くの人にとって死活問題になる)ので、今の日本で実行するのはほぼ不可能でしょう。
もちろん増税して歳入を増やすのも手です。ただし増税をしても、そのぶん景気が冷え込んで税収は結局減ってしまうことが多いのです。ギリシャはこの負のスパイラルに陥っています。となると、まともな方法で借金を減らすのは「ほぼ不可能」ということになります。では、これからどうなるのでしょう?
■国債の国内消化はいつまで可能か?
現在の日本の借金は95%が国内への金融機関などへの借金という、かなり特殊な事情があります。多くの国では外国への借金がかなり含まれており、それが返せなくなるとギリシャのようにデフォルト騒ぎになります。
現在、日本は国内に貸しているお金が積もり積もって1000兆円になったわけですが、いつまで続けられるのかが問題です。日本にある金融資産は約1400兆円と言われているので、その金額が国内で国債消化できる限度だという説もあります。ただ、実際はそんな単純ではありません。
資産が1400兆円ある一方、負債が300兆円程度あるので純資産は1100兆円程度だという説や、日本は経常黒字が続いているので、その分海外からお金が入り込み続けているという説もあります(この場合、経常赤字になると困る)。あるいは、国債を発行して調達した予算は国内に還流するので預金となり、再度国債購入に充てられるという説もあります。
いずれにせよ、いつかは「国内だけで国債を消化できなくなる日」が来る可能性が高いと考えられます。そうなると、これまでのようにひたすら国内金融機関に買ってもらうだけではなく、他の方法に頼らざるをえません。
■日銀が買い取る(お札を刷る)
国債を海外金融機関に買ってもらうなどの方法がありますが、個人的には実行される可能性が高いと考えているのが、この方法です。日本には通貨を発行する権限があるので、借金分だけ通貨を発行して、借金を返すことができます。このためには、日銀が国債を買い取るという方法をとります。
2月に金融緩和政策として、日銀が10兆円分の国債を買い取る政策を発表しました。これは、日銀が10兆円分のお札を刷って市中にバラまいたことを意味します。
ちなみに、日本では財政法第5条によって日銀が政府から直接国債を買い取ることは禁止されています。これを可能にすると、何でもお金を刷れば済むことになり、規律が保てないためです。例外的に、国会の承認を得れば可能になっています。
今やっているように、政府が一旦金融機関に国債を買わせて、それを日銀が引き取るような方法でも大きな違いはありません。
■なぜすぐに買い取りをしないのか?
理屈の上だけで言えば、現在1000兆円ある借金も、すべて日銀に買いとってもらえば(その分お札を刷れば)、「それで終わり」としてしまうことも可能です。
しかし、なぜしないのか? それは、お札をむやみに発行するとインフレになるからです。アメリカはリーマンショック後の不況を打破するために、「QE2」という6000億ドル(約50兆円)のドル札を刷る政策を実行しました。日本のようなデフレに陥ることを防いだ一方、国際的な先物価格(穀物、燃料など)の高騰を招いています。先物価格の上昇は、アメリカ国内だけの問題には留まりません。世界中の市民の生活が苦しくなっています。しかし、アメリカ政府は自国の景気回復を優先し、QE2を実行したわけです。
日本も同じようにお金を刷って行くと、国内がインフレになる可能性が高いと想定されます。同時に円安が進むので、輸入に頼る食料やガソリン価格なども上がって行きます。昨年の原発事故以来、火力発電に頼っており、電気料金も跳ね上がるでしょう。
国債が国内で消化できなくなったらお札を刷る。1000兆円を一度に刷る必要はなく、毎年数十兆ずつ刷って行くことも可能です。その場合、日本で毎年インフレが進行していくと考えられます。
■極端なインフレは考えづらい
「インフレ」というと、ジンバブエや第一次大戦後のドイツのように、「トラック一杯にお札を持って買い物に行く」という極端なハイパーインフレのイメージがあります。しかし、そこまで極端なものばかりではありません。
ジンバブエや第一次大戦後のドイツのインフレは、お札が多く刷られただけではなく、極端な物不足に陥ったのが原因でもあります。例えば、ジンバブエは商店に対して「高い価格で物を売ってはいけない」という命令が出されたため、物を売る商店がなくなって物不足になりました。ドイツは、ルール工業地域が戦勝国によって占領されたために、極端な物不足になりました。日本で、そのような生産・流通の停滞が起こる要素は現在はあまり考えられません。
インフレが起こるといってもそんなに極端なものにはならず、もう少し緩やかなものになりそうです。一つのモデルとしては、20世紀のトルコで発生した年率50〜100%程度のインフレです。トルコは1980年代まで財政を中央銀行の国債買い取りに頼っていた、つまりお札をたくさん刷っていたので、このようなインフレになっていました。
90年代に突入し、お札の発行をやめ主に国内向けに国債を発行し始めたのですが、長年続いていたインフレの勢いは止められませんでした。21世紀になって、デノミ(旧100万リラ=新1リラの新通貨発行)を経てようやくインフレが少し止まっています。
■インフレで日本人の生活はどうなる?
ここから先はあくまで仮定の話ですが、インフレが進行したとして、日本人の生活はどうなるでしょうか? 普通は物価が高騰していくと年金などで生活している人が非常に苦しくなりますが、日本の年金は物価スライド制になっていて、物価が上がると支給額も引き上げられる仕組みです。物価スライド制が正しく機能すれば、年金生活者がすぐに苦しくなることはありません。ただし、その分年金支給額を引き上げなくてはいけないので、年金の破綻が近くなったり、そのためにまたお金を刷ってインフレが際限なく進むことも考えられます。
預貯金などの価値も目減りします。日本は戦時中にも公債発行高が急増したことがありますが、戦後昭和21〜25年のインフレで通貨価値が100分の1程度に落ち、それによって公債問題は片付きました。反面、戦前に持っていた市民の貯蓄がほぼ無価値になっています。
このインフレのため、昭和28年にはそれまで使われていた「銭」が廃止されました。また、戦前は1ドル2〜4円程度だった為替レートが1ドル=360円になっています。
■考えられる今後のシナリオ
結論として現実的に国債の国内消化ができなくなったら、日銀の買い取り額を数十兆ずつ増やしてインフレの様子を見つつ、現在の借金の実質的価値を減らして返していくというのが一つの方法であると思われます。今後の財政の行く末をまとめると、
・国債の国内消化をできるところまで続ける
・できなくなったら日銀に買い取らせる(お札を刷る)
・それによってインフレが進行していく
というのが現実的に考えられるシナリオとして想定されます。ギリシャのような対外的な意味でのデフォルトにはならないでしょうが、インフレが極端に進行すると、それは一種の「破綻」と言えます。インフレになると貯蓄が目減りするので、外貨、金、不動産など他の資産に換えておくのも防衛手段の一つです。
【専門家ニュース解説:All About 編集部】
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