人食いバクテリアと呼ばれる「ビブリオ・バルニフィカス」という菌の名前を聞いたことはありますか?
夏などの暑い時期に感染が増えるといわれ、発病すると死に至ることもある危険な感染症だそうです。お刺身やお寿司などからも感染することがあるというから、注意したいものです。
今回は、このビブリオ・バルニフィカス感染症について医師に解説していただきました。
ビブリオ・バルニフィカスとは?
ビブリオ・バルニフィカスとは、夏場に刺身や寿司など生ものを食べるときによく話題にあがる「腸炎ビブリオ」や、東南アジアなどでの食中毒の原因となる「コレラ菌」などと同じビブリオ科に属する菌のことです。
ビブリオ(Vibrio)とは「振動」、バルニフィカス(vulnificus)は「傷」という意味があります。ビブリオ科の細菌は塩分濃度が高い(2〜8%程度)環境で発育しますが、このビブリオ・バルニフィカスはこれより薄い1%以上でも発育が可能であり、河口域でもみられます。
また夏に流行する傾向があり、他のビブリオ属と同様に海水温が20度を超えると検出されることが多くなってきます。
症状
健康な方は軽症が多い
ビブリオ・バルニフィカス感染症の症状は、免疫機能が低下していない健康な方の場合には、嘔吐、下痢、軽度の発熱など、胃腸炎や食中毒に似た症状で軽症となることが多いです。
特に注意が必要な方
免疫機能が低下している方や肝臓疾患のある方、もしくは貧血の治療で鉄剤を内服している方などは、重篤化することがあるため注意が必要です。
まず、急激な発熱と四肢の激しい痛みがあり、皮膚にさまざまな形態の病変が発生し、拡大していきます。紅斑・紫斑に始まり、悪化すると水疱、出血、潰瘍などが混在していきます。
そのような場合には、直ちに医療機関を受診してください。
感染経路
ビブリオ・バルニフィカスの感染経路には、口からの感染(経口感染)と、主に傷口からの感染(経皮感染)があります。
経口感染
経口感染では、海水と淡水が混じり合う汽水域でのエビなどの甲殻類や、鮮度の低下した魚介類・貝類の摂取が原因となります。
経皮感染
経皮感染では、皮膚に傷のある人が前述にような河口近くの海に入ることにより、皮膚にできた傷口から感染するといわれています。動物や人からの接触感染の報告は、現時点ではありません。
予防するには
十分調理されたものを食べる
ビブリオ・バルニフィカス感染症の予防は、まず免疫力が低下している方や肝臓障害を持つ方などは、夏など気温が高い時期には刺身・寿司・生ガキなど、火を十分に通していないものを食べるのは避けてください。
また、貝を煮る・蒸す・焼く場合には10分以上の調理を行う、調理で開かない鮮度の低下した貝は食べないなどの対応が必要です。
外傷に気をつける
健康な方であっても、皮膚に傷があるときはできるだけ海岸を歩かないようにしましょう。
治療法は?
ビブリオ・バルニフィカス感染症の治療は、軽症の場合には経過観察となります。
しかし重症感染の場合には、劇症型溶連菌(人食いバクテリアの一つ)と同様で、病変部分の外科的な切除や抗菌薬(第3世代セファロスポリン)、サイトカイン治療などの集中治療が必要となります。
最後に武井先生から一言
ビブリオ・バルニフィカス感染症は耳慣れない言葉ではありますが、特に夏などの気温が高い時期に気をつけなければいけない感染症です。
夏場の海産物の摂取方法や、傷があるときに海岸を歩くなど、リスクを確認しておくとよいでしょう。
【監修:医師 武井 智昭】
プロフィール)
慶応義塾大学医学部で小児科研修を修了したのち、 東京都・神奈川県内での地域中核病院・クリニックを経て、現在、なごみクリニック院長。
0歳のお産から100歳までの1世紀を診療するプライマリケア医師。